日本で2番目に古いライブハウスとして、地元・吉祥寺のみならず、全国に名を知られている老舗中の老舗、吉祥寺曼荼羅(以下、マンダラ)。そんな由緒あるライブハウスの若き七代目店長が五十嵐がんば郎氏だ。店長に就任してまだ1年足らず、自身のバンド活動も精力的に行いつつも、古き良き空間に新たな風を吹かせようと奮闘している五十嵐氏。バンドマンでありながら店長に抜擢された驚きの経緯や、思い描いているこれからのマンダラ、そして、その先にある夢について語ってもらった。
老舗のライブハウス 曼荼羅のいいところを残しつつ新しい遊び場にもしていけるように
ーーマンダラと言えば吉祥寺の顔とも呼べる由緒あるライブハウスですよね。まずはお店について自己紹介をお願いします。
五十嵐:1971年に浦和で誕生して1974年に吉祥寺にオープンした、ライブハウスとしては日本で2番目に古いかなり歴史のある店舗になりますね。おそらく多くの方、特にEggsを使っている若い人たちからは、大御所と呼ばれるようなベテランアーティストの方が多く出演する箱というイメージを持たれていると思うので「この取材を受けていいのかな?」って最初にオファーをいただいた時に思ってしまったんですけど(笑)。
ーーだからこそ、ぜひお話を伺いたいんです。五十嵐さんはいつからマンダラの店長をなさっているのですか。
五十嵐:実は去年(2024年)の8月になったばかりなんです。この2月でようやく半年、なんとかやってきたなという感じで。しかも僕、ライブハウスで働くのは初めてなんですよ。昔やっていたバンドは、曼荼羅グループではROCK JOINT GB(以下、ジービー)という系列のライブハウスによく出演させてもらったり、マンダラでも2年間、月1回のワンマンライブをやっていたり、演者としてはかなり親密に関わらせてもらっていたんですけど、ある日いきなり「マンダラの店長にならないか」と誘われまして(笑)。
新しい風を吹かせたかったんですかね。歴史が長いぶん、若い人には堅苦しくて敷居が高いイメージもあると思っていて、僕の周りでも名前はよく聞くけど行ったことはないっていう人が多いんです。そんな状況を踏まえてマンダラのこれからを考えた時に、そのイメージをいい意味で壊していけたらいいなと思ってます。そもそもライブハウスというものが全然なかった時代にマンダラを作った人たちが経営している会社なので、面白いことが大好きなんですよ。でなきゃ「あいつ(=自分)にやらせてみよう」なんてならないですから。長い歴史があってみんなが愛してくれているマンダラを上手く残しつつ、若い子たちの新しい遊び場にもしていけるように……っていうだいぶ重たいものを背負った気持ちでいますけどね、僕としては。
ーー決断するのはかなり勇気が必要だったのでは?
五十嵐:はい。当然ですけど、生活がガラッと変わりますからね。それまではバンドをやりながら働いていたんです。ただ僕、ライブハウスでだけは、絶対に働きたくないって思っていたんですよ。というのも僕はライブハウスが大好きで。自分の出演するライブが月に4〜5本ぐらい、友だちのライブを観に行くのが7〜8本くらいと生活の半分以上をライブハウスで過ごしてきてたんです。でも特定のライブハウスで働いちゃうと“そこの人”になるじゃないですか。マンダラはもちろん、それ以外にも吉祥寺に大好きなライブハウスはいっぱいあるので“そこの人”だと限定されることに抵抗があって。
ーー何が決め手になったのでしょう。
五十嵐:僕は今、28歳なんです。まだ若いとは言われるけど、何となく未来が見え始める年齢でもありますよね。自分のこの先を考えた時、もし自分がマンダラの店長になったとしたらもっと大きなところ……例えば大好きな吉祥寺という街や武蔵野という地区のライブシーンを今以上に揺らしてみたいっていうワクワクが生まれたんです。それでライブハウスの人間になろうと思えた。今の生活になってからは朝起きてから夜寝るまで、バンドかライブハウスのことしか考えることがない。ずっと音楽をやってきた人間としてはもう最高の幸せなんです。思い切った決断ではありましたけど、音楽でご飯を食べていくという意味でも大切な一歩でした。本当に何もわからないから、最初はアルバイトの子に受付のやり方やドリンクの作り方を教わるところから始まって。これから店長になる人に初歩的な業務を教えなきゃいけないなんて、みんなも気まずかったと思います(笑)。そうやって2ヵ月ほど経てから正式に店長になったんです。
ーーちなみに演者としての五十嵐さんにとってマンダラとはどんなライブハウスでしたか?
五十嵐:チャレンジさせてくれる場所。さっき言った月1回のワンマンライブもそうですけど、バンドメンバーよりお客さんのほうが少ないことも普通にあったんですよ。なのに2年間も続けさせてもらえた。毎回ライブが終わるたび当時の店長が「今日はお疲れ」って名物の曼荼羅カレーを食べさせてくれて、食べながら「今回はこうだったね、次からこうしていこう」ってたくさん課題や宿題を突き付けられるみたいな(笑)。そんなふうにして当時まだ19歳20歳ぐらいだった自分のバンドマンとしての根幹を作ってくれた場所なので、僕もそうありたいと思っているんです。こういうことをやってみたいっていう演者からの声にはできる限り全部耳を傾けて、チャレンジしやすい環境を作りたい。現実問題お金の話とか出てきますけど一旦それは置いといて「うん、やってみようぜ」って今、僕が心から言えるのは自分にもそういう時間があったからなんですよね。
“吉祥寺の音、武蔵野の音ってこれだよね”というシーンを作っていきたい
ーーブッキングの際に重視されていることや、こだわりなどはあるのでしょうか。
五十嵐:長い目標で言うと、やっぱり武蔵野のシーンが作りたいんですよ。例えば下北沢には下北沢の色が、高円寺には高円寺の色がありますよね。じゃあ吉祥寺は?というとライブハウスそれぞれの色はあっても、シーンとしてはまだボンヤリとしているように感じられて。でも明らかにライブハウスは多いじゃないですか。毎年ゴールデンウィークには『吉祥寺音楽祭』が開催されたりとか、音楽が好きな街であることは間違いない。環境はしっかりとあるんだから、あとは核とか芯になるようなものが作れたらって。それがアーティストなのか音楽性なのかはまだわからないけど“吉祥寺の音、武蔵野の音ってこれだよね”って誰が聴いてもそう思えるような、そしてそれに人が集まってくるような何かが、もう少しで作れるような気がしているので微力ながらマンダラもその一助になりたい。だからブッキングする時にはそこも意識しています。
例えば単体から生み出されるエネルギーがあったとして、2つになった時には足し算じゃなく掛け算になったらいいなと思うんです。そうした何かが生まれそうなバンド同士、アーティスト同士をどんどんぶつけていきたくて。そのうち「なんだかあいつら、いつもマンダラに出てるね」みたいな関係性ができて、その輪を少しずつ広げていけたらそれが自然とマンダラの音になり、もしかしたらシーンとかカルチャーというものに育っていくんじゃないかな、と。演者にも「俺たち、めっちゃ合うね」とか「なんだか仲良くなれそうだな」ってお互いに感じてもらえたら、そのライブは特別なものになると思うんです。そうやってマンダラで特別な時間を過ごすアーティストを増やしたい。だから僕、出てくれたバンドの(Instagramの)ストーリーズにマンダラ(での様子)が上がっているのを見るとすごく嬉しくなるんです。少しずつでもそういう場所になれているのかなって実感できるんですよ。

ーーただ出演して終わりではなく、大事な出会いや思い出が生まれたり最終的にはホームと呼ばれるような場所に。
五十嵐:本当にそうなれたらめちゃめちゃ嬉しいです。それが“場所を持っている”ということの1番の価値だと思うんですよ。場所を持っていてそこに人を集めることができるのがライブハウスの最大の魅力だなって、店長になってからつくづく感じるので、もっともっとマンダラをいろんな人にとっての特別な場所にしていけたら。
1か月間のスケジュールを全日埋められたことが嬉しい。毎日お客さんがマンダラに来てくれて楽しんでくれた証だから
ーー五十嵐さんが店長になられて、この半年間で何が1番嬉しかったですか。
五十嵐:記憶に新しいところだと2月のスケジュールをすべて埋められたことですね。僕が店長になった時に掲げた目標の一つだったんですが、半年で達成できたのは本当に嬉しい。おそらくマンダラとしても何年ぶりかの快挙で。もちろん売り上げも上がるわけですけど、その数字って毎日たくさんの人がマンダラに来てくれて、楽しい気持ちで帰ってくれた証じゃないですか。それは僕にとってもさらなるモチベーションになりました。
ーーでは今、五十嵐さんが注目しているインディーズバンド、あるいはアーティストを教えてください。
五十嵐:好きな人たちはいっぱいいるんですけど……Eggsに登録しているアーティストの中から挙げるとしたら、まずはこの間、マンダラでワンマンをやってくれたカマクラムツキですね。僕自身も系列店のジービーも推している大好きなアーティストで、音楽的なIQがすごく高いんですよ。他の人にはないワードセンスやメロディーセンス、コードワークがあって、新曲が出るたびに驚かされているので、ぜひたくさんの方に聴いてほしいです。
それから、秘密兵器というバンドも推したいです。この前、マンダラに出てくれたんですが、終演後に(Instagramの)リールに上がっていたダイジェスト動画を観ても泣きそうになるぐらいいいライブだったんですよ。このバンドとは、2〜3年前に僕がサポートをしているバンドとたまたま下北沢で対バンしたのがきっかけで仲良くなって。その後、僕がマンダラの店長になる時も「働きたいです」ってドラムの子が言ってくれて。今、スタッフとして入ってくれているんです。そんな経緯もありつつ……今回のライブはレコ発で、見事ソールドアウトしたんですけど、満員のお客さんの中で演奏をしている姿を観ながら“本当にどこで大きい出会いがあるかわからないな、ライブハウスってやっぱりすごいな”ってとても感慨深くて。すごくまっすぐないい歌を歌うバンドですし、これからさらにガンガン上がっていくと思います。
もう一つ絶対に推したいのがJacob Jr.。すごく歌が強いんですよ。しかも暴力的な強さじゃなくて包容力のある強さ。じつは先輩バンドで、僕からしたら大好きなお兄ちゃんたちみたいな存在なんですけど、歌声だけじゃなく人間性も大きくて、それがサウンドにも出てるからとてもやさしい気持ちにさせてくれるんですよね。
僕がやっているPonoってバンドもEggsにあがっているので、お時間あったらぜひ聴いていただけると嬉しいです!

ーー最後にインディーズシーンで頑張っている“Eggs(卵)”たちへのメッセージをいただけますか。
五十嵐:僕もバンドマンとして頑張っている身ですけど、自分が作る曲では目の前にいる人に“頑張れ”って言う歌詞は絶対に書かないようにしているんですよ。だって自分はまだそんなことを言える人間じゃないから。その代わり“俺が頑張る”っていう曲をたくさん書いてます。“頑張って今日も俺は生きています”って歌った曲を、同じように頑張って生きている人が聴いて、自分に照らし合わせるなり共感してくれたら嬉しいなって。やっぱり大変なんですよ、音楽を続けるのは。僕自身もこれからの人生のステージでいろんなことがあるだろうし、きっとみなさんもそうだと思います。人それぞれいろんなことがあるのに「絶対大丈夫だよ」なんて無責任すぎて言えない。今はただ“このマンダラという場所がいろんな人にとっての大切な場所になれるように、俺は俺で一生懸命、時間を使って体力を使って頑張るね”ってことと“ライブハウスは本当に素敵な場所だから、マンダラじゃなくてもいい、いっぱい遊びに行きましょう”ってことをメッセージとして残させてもらえれば。きっとライブハウスに行けば“ひとりじゃない”っていう気持ちになれると思うんですよね。少なくとも僕は、音楽が鳴っている大好きな場所で出会った人との他愛のないコミュニケーションがあったからこそ、これまで音楽を続けてこれたと思っているんですね。
RECOMMEND PLAYLIST
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livehouse info
吉祥寺ライブハウス 曼荼羅
- 東京都武蔵野市吉祥寺南町1-5-2
- アクセス
- JR中央線・京王井の頭線 吉祥寺駅 南口(公園口)徒歩2分
- キャパシティ
- スタンディング80名
- TEL
- 0422-48-5003
- 問い合わせ
- https://www.mandala-1.com/contact
- 公式HP
- https://www.mandala-1.com/