3月26日に関西のライブハウスプロデュースによる十代才能発掘プロジェクト・十代白書が開催されました。
十代白書は音楽活動を始めるきっかけ、オリジナルを作るきっかけ、ライブをしたいと思えるきっかけになればと、2011 年より開催されてきた十代限定の大会です。グランプリアーティストには9月に行われるKANSAI LOVERS 2025への出演権が与えられます。
今大会で15回目となり、過去にはChim Chap、ブランデー戦記、 DAYBAG、ハク。、 asmiなどなど、多くの関西のアーティストが羽ばたいていくきっかけを作っていきました。今回イベントMCは田中麻希とハタノユウスケのFM802DJ2名が務め、今回よりEggs Pass賞が新設されました。
今年も音源審査、1月に各地で行われたライブ審査を勝ち上がった12組が聖地・BIGCATにて集結。まさに関西版の「音楽の甲子園(by ハタノユウスケ)」の注目度で、チケットはSOLD OUT。スタートから多くの人が集まる中、熱戦を繰り広げました。
そちらの様子をレポートしていきます。
1.うずまき研究会
直前のお祭り感の空気を一気に変える『たましい』のサイケデリックなサウンド。少し驚きもある中、次第に体全身で揺れていくフロア。叫び吐き出すようなボーカルと衝動的なギタープレイ。かと思ったら急にピタッと音を止めて完全静寂。その濃い世界観に引き込んでいく。曲が終わると大いに沸き立つフロア。
続く『人』はまた違った緩急を見せ、進むたびに昼のBIGCATを不安渦巻く夜に連れていくではないか。最後はベースも弦を全て吹っ飛ばして終了。出演後インタビューでもその独特な雰囲気にハタノもたじたじ。ただ関西にはこんなバンドもいると、急いで全国に紹介したくなるには十分な強烈なオリジナリティだった。
setlist
- 01. たましい
- 02. 人

2.Winston
その高いテクニックを感じるサウンドやステージでの佇まいにも、19歳と18歳とは思えない大人のダンディーな余裕さがある。1曲目『ラヴソング』が終わった後のMCでは置田善大(Vo.Gt)も「結構いいでしょ?」と問いかけるなど自信たっぷり。でもそれが本当なのは徐々に手を挙げる人が増えていくフロアが証明していた。
2曲目『Change The World』では、よりメンバーのプレイもアグレッシブになり、Winstonの色気ある愛とロマンのバンドサウンドに完全に酔いしれるBIGCAT。十代白書は出演者の親族も多く来場するのが特徴だが、普遍的なロックンロールの良さに懐かしさを感じた人も多かっただろう。
setlist
- 01. ラヴソング
- 02. Change The World

3.STRUM MEMORIES
『あの頃の君へ』からゆーと(Vo.Gt)は飛び跳ね、全身で熱い歌唱を見せる。大サビ前に「みんな拳上げてください!」とフロアに伝え、多くの拳が上がると、さらにパワーアップした音を届ける3人。このバンド、元気玉が使えるようです。
ゆーとは昨年メンバーが自分1人になった状態から今のメンバーに出会い、応援してもらってこの舞台に立てたことを感謝する。そして「青春がいくつになっても続くように」と話し『青春謳歌』を放つ。苦難を乗り越えた先にあったのは、BIGCATの鮮やかな照明に照らされながら鳴り響くパンクロック。彼ら自身も含め懸命に生きる全ての人を祝福していた。
setlist
- 01. あの頃の君へ
- 02. 青春謳歌

4.NÖVEIL
「有象無象にはならぬ」という意気込み。そんな彼らが放つサウンドはギターと重みのあるドラムの音が効いた生のバンドサウンドと、映画のBGMのようなスケールの大きい同期のサウンドが合わさった不思議な世界観。物語を1ページ1ページ進めていき、クライマックスに向けて盛り上がっていく様子を、ただただワクワクして見ていくしかなかった。1曲目から2曲目に移る時に青の照明から赤の照明に切り替わる時間も圧巻。
今年の十代白書予選が初ライブだったという。こういうバンドが突然出てくるのが十代白書の良さ。スクリーンを使用したライブとか見てみたいし、やっぱりスクリーンを使ってたんじゃないか、あとで写真を見返します。
setlist
- 01. 空蝉
- 02. PHYCHEDELIC LAUGHTERS

5.そば缶
ステージの中央で4人が向かい合って始まった『bye bye』は徐々に会場全体のグルーヴを高めていく。ほどよくメリハリのついたサウンドは思わず前のめりにさせてくれる。そこにクラップを要求してきたら、それでやらないBIGCATなんて”味気ないわ”と言わんばかりに一体となったクラップを響かせる。
続く『チョイセンス』でも彩那(Gt)の巧みなギターと、ピンボーカルに変わった穏波(Gt.Vo)の楽しく歌い回る姿に見ているこちらも幸せホルモンが分泌される。特に途中、優音(Ba)と彩那が穏波をサンドイッチしていたシーンは、これからもまた大きな舞台で見せてほしいと思った。
setlist
- 01. bye bye
- 02. チョイセンス

6.AKAMONE
シンプルなスリーピースのバンドサウンドをしっかりと響かせる。決して3人はステージ上で大きく動いたり、煽ったりしていたわけではないが、野元純太(Gt.Vo)のエモーショナルな歌唱と東里優月(Dr .Cho)のコーラスも効果的でBIGCATという大きいステージでもしっかり後ろまで届いていることが伝わった。
野元が「寂しい歌で、悲しい歌で、そんな歌だけど歌ってる時だけは、どこか胸の一番奥が温かくなるような、そんな気がします」と伝え始まった『寂しくなるな』は、より丁寧に歌われたバラード。最初から最後まで優しい空間を作り上げた。しっかりフロア1人1人を意識して見渡す野元の姿も印象的だった。
setlist
- 01. 通り雨
- 02. 寂しくなるな

7.Liver Shot
西堀旬(Gt)はギターに取り憑かれているのだろうか。『リロード』の初っ端から所狭しと動きながらの轟音ギタープレイは目を引き、お立ち台に上がるたびに歓声が増えているように思えた。その無敵状態は日常の如く、我孫子淳生(Vo.Gt)も堂々と歌い上げる。
そんな我孫子にスポットライトが当たって歌い始めた『Take you on』。ロックバンドとして、どこまでも連れて行くという覚悟が溢れており、その熱に撃ち抜かれたフロアは終始大きなクラップで応える。岡本悠良(Ba)と阪口光羽馬(Dr)のソロパートも決まり、意気込み通り「心斎橋ごと揺らす」を4ピースロックバンドとして達成していた。
setlist
- 01. リロード
- 02. Take you on

8.虎ト卯
音鳴らした瞬間、一気に明るくなったように感じたのは、虎ト卯の持つ天性のものだろう。元気よく叫ぶ響(Gt.Vo)、あいか(Ba .Cho)とissa(Gt)は最初から広くお立ち台も使っていく。洋楽の要素も強く感じるポップロックチューン『ユートピア』のエネルギーで多くの人を巻き込んでBIGCATをホームに変えていく。
響はMCで感謝を各方面に伝え「ここにいる多くの人達を笑顔にして帰れるように、私は私自身の、そして皆のスーパーヒーローになって帰ります!」と伝え『スーパーヒーロー』へ。爽快感の中にあるフミヤ(Dr.Cho)の小刻みなビートが心地よい。最後までエネルギッシュに駆け抜けた。
setlist
- 01. ユートピア
- 02. スーパーヒーロー

9.イアイリ
「19歳、シンガーソングライター、イアイリ始めます」という短い自己紹介から、ここまで続いたバンドの流れに負けないというシンガーソングライターの意地を感じさせた。そして力強く弾き始め『ナインティーン』を届ける。等身大の自分をぶつけていく姿に拍手が起こる。
3度目の挑戦で2年ぶり2回目の決勝進出。活動を重ねて、怖いもの知らずじゃなくなったからこそ生まれた音楽への覚悟と煌めきがそのまま詰まった『オレンジ』を届ける。<僕の歌がいつのまにか誰かの歌になったこと>。出会いを大切にするイアイリの歌がそうなっていく輪は少しずつでも確実に広まっていくことは間違いないだろう。
setlist
- 01. ナインティーン
- 02. オレンジ

10.ペシミスピアス
早々に響かせたノイジーなギターはBIGCATを少しずつ沈めていく。そこから松井将悟(Dr)のドラムの音に合わせたクラップが鳴り響く中、伊能佑太(Vo.Gt)は「俺らのこの時間は綺麗事じゃなくて、ファッションなんかじゃなくて、本当のところで全員繋がりましょう」と話し、濃密な2曲を披露。危険性のある曲達は、記憶の蓋を引き剥がし、昔の傷を疼かせる。と、同時に血液の温度が上がって、このバンドをもっと欲する気持ちも湧いてきた。
曲間のMCや終了後のインタビューでは、この日も来ていたいつもライブに来てくれるお客さんはじめ、応援してくれている人への思いも。彼らの深い愛がしっかり届いた。
setlist
- 01. ファッションヘルス
- 02. 散々泣いて君に返る

11.lien
純白の衣装と純白のギターでまずは『哀少女』を届ける。シリアスな楽曲だが、伸びやかに歌い上げる歌声にも、囁くような歌声にも、掠れたような歌声にも、愛への強い渇望が込められていて、演奏後に大きな拍手が送られる。
次の『Free』ではギターを置き、音源に合わせてハンドマイク1本で美しく舞うように、ブルージーに、しかし心を軽くするような晴れやかさもある、まさかのラップパートもありの多彩なボーカルで包み込む。その指先にまで魅了されたフロアからは「見つけちゃった感」が出ていた。
そんなステージとのギャップもあるMCも魅力的。人と人の心を繋ぐシンガーソングライターになるのが目標とのことだが、なる。
setlist
- 01. 哀少女
- 02. Free

12.青が藍に染まるまで
悠希(Gt.Vo)の語りから『藍に染まって』を開始。彼のクリアなボーカルと優しいメロディのミックスは唯一無二。それを緻密に作るかなね(Ba)も楽しそうにノる。ラスサビで優しくも一気に開けて、照明の光に包まれた姿、そして次曲『理想郷』への繋ぎも全く隙がなくて凄みさえあった。
その『理想郷』でも、どこまでも澄んだ光をまとったサウンドを届けており、アウトロはこの熱戦を締めくくるのに相応しいドラマチックなエンドロールとなっていた。
メンバーの再集結、改名というストーリーを経て、1月の予選からライブ数を多く重ねて挑んだ青藍。運命は自分達で掴み取るという強い意志を見せた。
setlist
- 01. 藍に染まって
- 02. 理想郷

結果発表
前年グランプリのChim Chapによるゲストライブを挟み、各賞が発表された。
Eggs Pass賞…lien
準グランプリ…Liver Shot
グランプリ…AKAMONE
グランプリを獲得したAKAMONEはKANSAI LOVERSに向けて「任せてください」と約束。
審査委員長・岸本優二(HEADLINE代表取締役)は総評で「このイベントは15回目になります。よかったらHPで歴代のアーティストを見てほしいんですが、関西ってこんなに面白いんだなって思ってもらえると思います。これはきっかけですので、また明日からもライブハウス運営してますので、是非生のライブハウスに遊びに来てもらいたいと思います」とコメントした。
十代の音楽表現も多様化する中で、まだまだ生身で表現するロックバンドもソロシンガーも新しいものを見せてくれると感じた。
【閉じ込めるな!その才能を!かき鳴らせ!その個性を!】
そのメッセージはここから20年、30年とずっと続いていくだろう!