誰にも存在する“自分がいた場所”を思い出させる「親不孝通り」。シンガロングを想起させる力強いメロディーも魅力
福岡を拠点に活動する4ピースバンド、The カンナクラブ。
彼らの新曲「親不孝通り」は、地元・福岡市の実在する通りを舞台に揺れ動く感情と記憶を丁寧に描いた1曲だ。日々の感情を題材にし、リアルな視点を持ち味とする彼らにとって、この曲は地元への愛着と普遍的なメッセージを両立させた重要な1曲と言える。
ダイナミックなミディアムチューンとなった「親不孝通り」。冒頭のイントロから見事なバンドアンサンブルが展開する。広がりのあるバンドアレンジと包容力があり芯のあるメロディーが特徴のスケール感がいい。<最近なんか死ぬことが怖くなってしまったの><変わってほしくないことばかり変わってしまうよね>といった感情の機微を掬い取った歌詞も、韻を踏んだりと、彼らのスキルがしっかり表れている。バンドアンサンブルは、あくまでも歌を引き立てるシンプルな構成でありながら、要所ではアクセントのあるコードワークやダイナミクスの変化で、情景に奥行きを与えている。
この曲の魅力は、描かれている“親不孝通り”という固有の地名にとどまらず、誰にも存在する“自分がいた場所”を思わせる点にある。懐かしさとほろ苦さ、そして希望が、リスナーそれぞれの記憶にそっと触れていく。
ボーカルの歌声には、張り詰めたような緊張感と、そこをふっと緩めるような柔らかさが共存している。サビの繰り返しでシンガロングを想起させる 力強さもある。
「親不孝通り」は、The カンナクラブというバンドの現在地を示すだけでなく、彼らの原風景を通して“変わっていくもの”と“変わらない想い”の両方をリスナーに問いかける1曲だ。インディーズシーンで、めきめきと頭角を現している彼らの今後の活動にも期待したい。